【さいちゃんのぼうけんVol.1】中橋を渡る
休日のある日。
朝起きると
今日も空は秋晴れ。
さいちゃんはぐーんとひとのび
階段を駆け下りて「おはよう!」とじいさんに言った。
「さいちゃんおはよう」
熱々のコーヒーをひとくち飲んでじいさん
「もうちょっと寝てればよかったのに、これから新聞読もうと思ってたんだけど」と苦笑。
そのうちおかあさんも起きてきて
「おはよう、朝ごはんはパンだよ」
昨日じいさんが買ってきたマルタカパンのぶどうパンを取り出す。
ちょっと焼いたパンで、山清のコロッケ、メンチをくるっと巻いてがぶりがぶり。
「ティラノサウルスみたいにいっぱい食べるんだ」
ホットミルクをごくごく飲んで
「ごちそうさま!」
歯みがきが終わっておかあさんと外へ出たさいちゃんは、
愛車のすーちゃんにまたがり足ならし。
※すーちゃん=ストライダー(ペダル無し自転車)
「ぼうけんにいきたい!」
「いいね行ってみよう!」
ぼうけんはどっちへ行く?
北仲通りを左右見渡して
「こっち」と左へGO!
「ぼうけんはちょっととおいんだよ」
「なるほど、じゃあ次はどっち?」
こっち!と信号を渡ってうなぎ屋さんの脇を過ぎて、両毛線の「小さい踏み切り」を越えると、おばさんが「おはよう」と声をかけた。
さいちゃんも「おはよう!」と言ってまた勢いよく進む。
坂道うんしょうんしょ。坂の上はなんだか光ってる。
ふう到着。「あの川はなんてお名前だっけ?」おかあさんが聞いた。
「えーとわたらせがわ!」
ピンポーン。
自転車のタイヤで道の端っこに生える草を踏みしだくのが好き。ざくざくさくさく。
「さいちゃんなかばしに行きたい」
「えー、ちょっと遠いから手前まででいい?」と40歳のおかあさん。
「やだっわたりたい」と3歳のさいちゃん。
とほほ。
ペパーミントグリーンのアーチが鮮やかな中橋をずんずん進む。
「水がきらきらしてるね」
さいちゃんにんまり。
「あっちの橋はなんだった?」とおかあさん。
「わたらせばしだよ」
ひとつ川上にかかる銀色の鉄橋。
とおくに東武線の電車が通る。
「ふつうでんしゃだよ!」
電車に眼がない坊主。
やっとこさ橋の南へ「さあ帰ろう」と思ったら
「もうおりるー」とすーちゃん下車。がくっ
「じゃあすーちゃんはおかあさんが持っていくから一緒に歩こうね」しぶしぶ歩き出す。
おひさまに照らされて、道にくっきり映るのは「さいちゃん見て、影だよ。おかあさんとさいちゃんとあとすーちゃん」
橋の北側へ着くと「大きい踏み切り」に丁度両毛線がやってきた!
いっしょにしゃがんで風圧と地響きを味わう。「いってらっしゃーい」
トラックを眺めて、メガネ屋さんの大きなメガネを見上げて、閻魔様で「のんのん」して、
映画館の前を通って、天狗のおじさんに挨拶して、おとうちゃんへのお土産にちっちゃい石を拾って帰ってきた。
「おとうちゃんのどかわいたよー」
おかあさん疲れました。
さいちゃんのぼうけんはまだ続く。
【ライタープロフィール】
なべのそこ
栃木県足利、渡良瀬川のほとり、関東平野の最果て。大正6年に建てられた古民家を拠点に、このまちの魅力発信やっています。
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