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渡良瀬ラプソディー [第1話]

きたかぜ~こぞぅ~のかんたろ~かんたろ ことしも~まちま~でやってきた ひゅる~ン ひゅる~ン

歌詞はないがメロディーがこの町の18:00を告げる時報装置から流れると、子供の時からずっと聞かされているので無意識に口ずさんでしまう。

この時間のちょっと前に散歩に出かけるのが日課になっていた。
この町には北と南側に大きく分断するように川が流れている。
この川は、渡良瀬川と言われていてこの町の象徴みたいになっている。
その川の河川敷はランニングや犬の散歩、週末には少年たちがフットサルなどをして町の憩いの場所になっている。
この時間くらい渡良瀬川の土手から見る夕日がとても好きで、時間があればここにきてしまっている。
夕暮れに沈む太陽はいつもより大きく見え。
茜色に染まるまだら模様に広がる雲はビビットカラーに塗りつぶされたように染め上げられている。
この時間は30分とかからずに闇夜に飲まれていってしまう。
町のみんなも闇から逃げるように足早に帰路についているようだった。
ここら辺は、街灯が少なく一人で歩くのはなれている人でもあまり通りたくないものだった。

「さぁ店に戻るか」



そう言って、夕日に背を向けて仕事に戻るのだった。
俺は、爺さんの時代からやっている。古本屋で働いている。
木造で夏は暑くて、冬はすきま風でジッとしていられないくらい寒くなる。
最近では、玄関の扉が開きづらくなってきて傾きかかっている。
本格的な地震が来たら家ごと本に押しつぶされて殺されてしまうんじゃないかと心配の種ではある。
俺こんな所で死にたくないよ
こんなくだらないことが最近の俺の悩みだった。

ここまで、読んでいるあんただったらわかるだろ?
俺の住んでいる町、足利市ってそんだけ何もなくてなにもおきなくてそれがいいって感じ?
昔は、そこそこデカい街で活気もあったらしいんだが今は、少子高齢化のあおりを多分に漏れず受けて体感老人10人に対して子供1人くらいな感じ
街も静かでうちの店も静かで、客なんかも月両手いればいいほうで、たまに爺さんの友人がきて夏目漱石の初版だの太宰の初版だのいわれてアタフタしてしまう。
そんな、街で起きた春先に起きた事件の話をしようと思う。
事件って言っても新聞にも載ら無かった事件だけどね。


今年の冬は、あったかいんだか寒いんだかよくわからない天気が続いている。
ある所では暑すぎて野菜がダメになってしまったり、豪雪で電車が何日も運行中止になってしまったり
これって同じ日本の話かと疑いたくなるよな?
テレビで言ってた通り世界温暖化の影響なのかな?
でも、おかしいよな。
数年前に世界的な疫病で世界の生産と生活活動、なんだったら飛行機すら飛ばずにエネルギー消費は世界的に減ってたのにちっともよくならないってどうなんだろうな?
そんな、Fラン大学卒の俺にはわからない問題を考えるくらい。
足利の町は平和だった。
ちょうど梅の花が咲き始めてきて、日中の日向は何とも心地よく、そんないち古本屋の店主には関わりのない話をあれこれ考えるには、最適な環境だった。
この店の少しある良い所のひとつだ。
今日も店を開けてから誰も来ていない。
いつものことだが、今月始まってから閑古鳥
慣れているとは言えさすがに焦って来ていた
焦ってもしょうがないとは思っていても少しおちこんじゃうよ。

俺はやることも、やりたいこともなくなんとなく入れる大学に入って可も不可もなく、すんなり卒業して、周りに合わせて就活をして、田舎じゃ大した仕事もなかったので都内のほうに面接行って何社目かでやっと合格したんだけど、そこが典型的なブラックで、4年目ちょいで体ぶっ壊して、こっちに帰って来たそのタイミングで爺さんが亡くなった。
爺さんとは子供のころはよく遊んでくれて近くの駄菓子屋で普段母親からお菓子は100円までと言われていたが、たくさん買ってきて母親によく怒られていた。
そんな俺を見て爺さんはよくかばってくれた。
高校生位になって疎遠になって最近では、まったく連絡もしなくなっていた。
葬式があって親父は普通の会社員だから、この店もつぶすってなったんだけど…
そのとき、急に昔爺さんとの思い出がよみがえってしまって、
「俺この店やってみようかなって、いまやることもないからさぁ」
って言ってしまった。
親戚一同、親からも特に母親からは本当にしんぱいされてしまった。
あんた、会社でもろくに働けないのにこんな古に古の古本屋なんてできるわけないでしょ。

母さん、その言い方は痛いよと思ったが、その内心も理解できた。
今のご時世、街の大型本屋もつぶれる時代に素人に毛が生えたような、若造にできるわけないことくらい。
だが、いろいろ条件が出て納得してくれた。
店が回らなくなったらすぐやめること、
借金はしないこと、
古本屋をやりながら違う仕事を探すこと、
が条件でだされた。

父親はこれも社会勉強だなっ、と案外すぐ認めてくれた。
妹の瑞希は「お兄ちゃん馬鹿だね~また彼女いない歴延ばす気なの?」
と憎まれ口を叩かれたが的を得ていすぎて、なにも言い返せなかった。
人って本当に何も言えないと ぐぬぬって言ちゃうんだな。
いよいよ始まった新生活だが悪いことだけではなかった。
一階は店舗スペース、二階は居住スペースになっていた。
昔ながらの建物なので、階段が急で上り下りが怖くてたまらない。
爺さんが住んでいたので、物は古いが、必要なものはそろっていた。
家賃はかからないので、贅沢をしなければ、働いていた時の貯金で何とか暮らせる。
ただ、そう長くはもたないのでどうしようか悩んでいたら、ついつい地球温暖化の話になってしまったって話なんだ。
少し、昔話思い出してしまっていたが、
今日も今日とて待ってくれないので、俺は大学生の時にかったノートパソコンをおもむろに開いた時に

「すいませーんッ!」

静寂を保っていた店内に久しぶりに響いた言葉は初々しく、少し緊張した様子だった。
「どうしたの~」と
入口に目をやると胸のあたりにA4のコピー用紙を大事そうに抱えていた。少女が立っていた。
「ネコちゃん探してるのッ」

話しを聞くと彼女の名前はゆあちゃんというそうで近くの家に住んでおり、いつも餌をあげていた野良猫だった。キララが1週間近く姿をあらわさなくなって、心配して探し回っているところ
店の前を通るとよくネコが日向ぼっこをしているのを覚えていたので、うちを尋ねに来たそうで、手にはクレヨンなどでネコの特徴が書かれた手作りの張り紙を持っていた。
そこに、指名手配犯と書いてあって少し笑ってしまった。
コンビニで見て真似して書いたそうで、最近の子は賢いんだなーと感心してしまった。

そして、いくつか話を聞いた後、店の一番目立つところにその紙を貼るのと、見つけたらすぐ連絡することを約束してその子は帰っていった。
張り紙を入口の見やすい所に張り付けて、少し見つめていた。
今日もやることもないし、客も来ないだろうし
街中にネコさがしでも行ってみますか。

そう思い開いたノートパソコンを乱暴に閉じると、指名手配犯のネコの横に、
店主失踪中、探さないでください。っと書いた張り紙を貼りつけ
陽も高くなり薄着でも散歩するにはちょうど良い日差しの中
鼻歌交じりに街中に歩みだす。 

ひゅるーン ひゅるーン ひゅるるーン るんるんるん 『春』でごさんす ひゅるるるる♪

つづく


ひとり 店長