【2024年版】映画〈リリイ・シュシュのすべて〉舞台の現在ーなぜ足利が選ばれたのかー
1.記事の概要
伝統と歴史のある町、足利。その風情と日本映画の親和性は高く、これまで多くの作品がこの町を舞台に撮影されてきました。この記事では岩井俊二監督の〈リリイシュシュのすべて〉の撮影場所を巡ります。この記事を通して国内外のファンの皆様が足利の魅力を知っていただければ幸いです。
2. 足利市の魅力
足利市は栃木県の中央に位置する人口14万人の都市です。日本最古の学校である足利学校や、国宝に指定されている寺院の鑁阿寺(ばんなじ)を中心に、北は織姫神社、南に渡良瀬川を望む、自然と歴史に満ちた町であり、東の京都と呼ばれています。
3. 岩井俊二監督の世界について
「リリィシュシュのすべて」の原作者にして監督である岩井俊二氏は宮城県仙台市出身で、80年代にミュージックビデオの制作をはじめ、90年代にドラマ制作に関わり始めたことをきっかけに頭角を現した、現代日本映画の巨匠です。映画の他にはプロデューサーも務めており、東日本大震災の復興支援ソングである「花は咲く」の作詞者としても知られています。
岩井氏の作品は、随所に映像と音楽の革新的な手法が見てとれ、特徴的なカメラワークで捉える美しい風景描写と、それに融合する唯一無二の音楽が強烈な印象を与えます。また、登場人物たちを常に現実と虚構、日常と非日常、古典とモダンの境界線上を綱渡りさせて葛藤や苦悩を経験させ、その成長の過程を田園や鉄塔といったシンボルに置き換えて見せてくれる点も大きな特徴です。
4. この映画のタイトル〈リリイ・シュシュのすべて〉
・あらすじ(ネタバレなし)
14歳の蓮見雄一は学校で激しいいじめに遭い、地獄のような日々を送っていた。雄一が生きる目的は歌手のリリイ・シュシュの歌だけだった。同級生の星野修介からリリイについて教えてもらい、以後雄一はリリイの虜になり、ファンサイトである〈lilyphilia〉を立ち上げ、ファンの界隈では名の知れた存在にまでなる。しかし、現実で雄一をいじめる者たちの主犯格は星野であった。そんな星野にかつてリリイを教えた人がいた。小学校の時から星野と同じ学校に通っていた久野陽子だ。久野陽子に密かに思いを寄せていた雄一。しかし、星野の毒牙が雄一と親しくなった少女、津田詩織と久野陽子に向いてしまう…
・影響
リリイを中心に紡がれる中学生たちの群像劇を通して、かつて誰もが感じていた青春の閉塞感、残酷で目を背けたくなる場面と、美しい風景、回復する心の傷とが交叉し、少年少女たちの平和な内面と直面する現実が同一線上で描写されるこの作品は、世界的に高く評価されており、この作品の雰囲気に触れるため国内外問わず多くの方々が足利に足を運んでくださっています。
次の項目では、足利市内にあるロケ地を紹介します。
5. 足利市のロケ地一覧
(1)葉鹿橋の鉄塔
津田詩織がカイトを飛ばす場面で登場しました。足利市と桐生市の境い目あたりにあります。
渡良瀬川沿いに自転車で走ると南側に見えてきます。
この作品を象徴するような存在となったこの鉄塔は河川敷のサッカーコートを見下ろすようにして建っています。この塔が見下ろすサッカーコートこそが津田詩織がカイトを飛ばした場所であり、現地に赴いて同じ場所に立ってみると「空飛びたい」という声が聴こえてきそうです。劇中の構図と同じ写真を撮ってみるのもオススメです。
所在地マップ
(2)太田市方面の田園風景
雄一がリリィシュシュのグラフィックアートを立てかけて見とれる場面です。思わず真似したいと思うほど印象的なシーンですが場所が分かりにくいです。
タクシーを利用して「バンドー化学」まで乗せてもらったあと400メートルほど歩くか、レンタサイクルを借りるのがいいでしょう。
写真は5月ごろの田園風景ですが、秋になれば稲が高くなり、冬には星野が立っていたような収穫後の何もない田園が見れ、季節と共に変化してゆく景色を楽しむことができます。また、場所を調べずに行くと美しい田園の風景に迷うことが多々ありましたが、それはそれで貴重な体験になりました。
(3)県駅
雄一が悪友2人と別れて帰宅する場面、雄一が津田詩織と初めて会う場面で登場しました。田園の中にポツンとある無人駅で、昭和3年開業の歴史ある駅です。
東武足利市駅から東に3駅行ったところにあります。
この県駅は2本の線路が1つのホームを挟む謂わゆる島式ホームであり、上の写真の連絡橋が改札出口とホームとを繋いでいます。この閉鎖的な構造こそが、自らの環境から抜け出せない雄一たちを象徴しているのだと考えずにはいられません。
所在地マップ
(4)高庵寺近くの煙突
雄一が電車に揺られて担任の先生とCDを聴きながら学校へ帰る場面で一瞬映る煙突。数秒しか映らなかったので覚えていない人も多いのではと思いますが、撮影監督であった篠田昇氏の才能が光る素晴らしいシーンでした。雄一くんを演じた市原隼人さんもお気に入りのシーンだそうです。
また、この映画に影響されて、現在注目されている韓国のシューゲイザーロックバンド「parannoul」はアルバム「To See the Next Part of the Dream」を発表しました。楽曲の最初と途中にこの映画の音声が使われ、歌詞の中身も映画の登場人物を連想させるような内容に仕上がっており、映画とリンクするアルバムとなっています。
(5)中橋近くの旧CDショップ
雄一たちが映画冒頭で訪れる中古CDショップ(の跡地)
現在はカフェ「Room Coffee Stand」さんが入っています。
(6)中橋
中橋は足利市の歴史ある建築物の一つで、19世紀のドイツで生まれた形式を取り入れて建てられました。東京の八ツ山橋とならんで我が国の重要な歴史的遺産です。
〈リリイシュシュのすべて〉においては津田詩織が登場する印象的な場面で使われています。
なお、中橋は架け替え工事の最中であり、今年の10月から2028年春まで通行止めとなります。橋自体は残す架け替え工事となり、撤去はされないようです。詳しくは足利市ホームページを参照して下さい。
所在地マップ
(7)足利市立美術館近くの小さなトンネル
映画冒頭の印象的な場面で使用されました。
(8)JR足利駅
星野が久野陽子と再開し、雄一が久野陽子を初めて見る大切な場面で使われました。昭和初期の洋風木造駅舎で、関東の駅百選に選出された芸術的価値と歴史的価値の高い建築物です。
現在駅の内部は建て替えが進み現代風となっています。駅に入って右側には足利市で撮影された作品のポスターが展示されており、映画ファンなら必見です。
(9)ラーメンゆめ屋さん
まだ星野と雄一が友達で、池田先輩に連れられてラーメンを食べる場面。もしかすると雄一の中学生活で最も充実した日々だったのかもしれません。
ゆめ屋さんはこの23年間、リリイファンの集まるいわば聖地のような場所でした。今でも7〜8月は毎日のように海外からお客さんが訪ねてこられるようです。しかし、現在店主のお母さんがご高齢のため、お店を開けておくのが大変だそうです。なので、位置情報等は掲載いたしません。もし、ゆめ屋さんを見つけて来店することがあっても、店内ではお静かにお願いいたします。
6.足利市へのアクセス
足利市へは浅草、北千住から特急りょうもうを利用して来るのがおすすめです。料金は約2000円で所要時間は1時間10分。また、日光、宇都宮からも同等の料金と時間でアクセス可能です。東京観光のついでに足利にいらしてみてはどうでしょうか。
7.最後に
足利市にはこの他にも魅力的なお店、イベント、特に北関東最大級の花火大会などがあり、いずれの季節に訪れても見どころが絶えません。観光サイトやSNSに載っていない穴場スポットも数多くあり、現地の方々に聞きながら周るのがオススメです。
そして、足利は〈リリイシュシュのすべて〉において核心的な概念であるエーテルに触れることができる場所です。映画を観てもなおエーテルが何なのか分からなかったという人も、きっと足利に来れば五感で掴むことができます。リリィシュシュが好きならば、一度いらしてみてください。
【ライタープロフィール】
たもちゃん
映画とお酒が好きな旅人。
座右の銘「姿ハ似セガタク、意ハ似セ易シ」